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災害時の心のケア

以下は、アスク・ヒューマンケアのメルマガから転載したものです。

以下は、アスクの『災害と心のケア』ハンドブックからの抜粋です。
このハンドブックは、アスクが阪神淡路大震災の直後に関係機関に流した情報や、現地の援助者を対象に開催した緊急ワークショップの内容をまとめたものです。
長いですので、関係するところのみ、どうぞお役立てください。

………もくじ………

1.傷つくのは、直接被災した人だけではありません

被災した個人だけでなく、その地域全体が、災害のショックで傷つき、マヒに陥ります。
たとえば津波の被害からまぬがれた人も、なじみのある町の風景や、これまでの日常を失っただけで、打撃を受けます。

地域の行政機関や医療機関も、パニック状態に陥ります。
救助や援助に向かった人たちも、緊張・重圧・ショックにさらされます。

被災地にいなくても、親しい人の安否についての心配はもちろん、各地の悲惨な様子に過去の被災体験がよみがえったり、自分が安全な場にいることに負い目を感じる気持ち、何もできないことで落ち着かない気持ちなど、かなりの人が多かれ少なかれ、影響を受けます。

2.災害時のストレス反応について

多くの被災者は、下記のような状態を経験します。
これは「異常な事態に対する正常な反応」です。

【心理・感情】
感情のマヒ・眠れない・恐怖の揺り戻し・不安・孤独感・疎外感・イライラ・怒り・生き残ったことへの罪悪感 など

【身体】
頭痛・手足のだるさ・筋肉痛・胸の痛み・吐き気 など

【思考】
集中できない・思考力のマヒ・混乱・短期の記憶喪失・無気力・決断力や判断力の低下 など

【行動】
怒りの爆発・家族間のトラブル・周囲との接触を拒絶する・飲酒問題・子ども返り など

3.ストレス軽減の方法

次のような方法が有効です――。

もっともよいのは、誰かに体験を話すこと。
互いに話して、聞くのは、非常に有効なストレス軽減法。

話すときは「できごと」「考え」「気持ち」の順にすると話しやすい。

感情を抑えない。泣きたいときには泣く。

文章に書く、絵を描くのもよい。

ストレスがあると呼吸が浅くなりがち。深呼吸する。

軽く運動して、身体をほぐす。

親子や家族、友人間でのスキンシップも、緊張をほぐすのにとてもよい。

日常そのものが大変な時だからこそ、ほんの少しでいいから自分のための時間を見つけて気持ちが楽になることをする。

自分を責めない。

つらさを一人で抱えこまずに、助けを求める。

4.飲酒についての注意

ストレスを酒でまぎらわすのは危険です。

災害によるストレス反応のひとつに、飲酒の増加があります。
感情的に不安定になっているところにアルコールが入れば、飲酒のコントロールが失われやすく、極端な行動や、トラブル、認知の混乱などが起こりやすくなります。

また、飲酒している人の家族は、災害のストレス・周囲への気がね・飲んでいる人が家族としての責任を果たせない、という3つが重なって、この上なくつらい思いをします。

アルコール問題を防ぐため、地域にこうした知識を徹底させ、避難所内は禁酒にすることが大切です。

5.援助者の二次被災を防ぐ

災害当初の人命救助、救急医療、避難所運営、復旧作業、心のケアなど、被災地で援助を行なう人々は「二次被災者」とも言われます。

援助者は非常に緊迫した状況の中で仕事をします。

人手が足りない、物資が足りない、情報が足りない……こうした悪条件に加え、悲惨な現場に立ち合うことも多いでしょう。
救助すべきなのにできないなど、自分には手のつけようのない状況にも直面します。
ときには被災者から、やり場のない怒りをぶつけられることもあります。
援助者自身が自宅で被災している場合もあります。

これだけのストレス下でオーバーワークを強いられれば、感情的にまいってしまうのは人間として自然なことです。
心身の後遺症を残さないため、セルフケアが不可欠。

【相棒を作る】
必ずペアを組んで行動し、お互いの様子を常にチェックする。
相手に疲れが見えたら、少しの時間でも休むようアドバイス。
仕事の後は、体験したこと・感じたことを話し、感情を吐き出す。
互いに「よくやった」と声をかけあう。

【休憩をとる】
たとえ5分でも、現場から離れて深呼吸したり、甘いものを口に入れるなどで、心身の疲労は回復する。
家や宿舎に帰った後は、十分な食事と睡眠を。

【自分の限界を知る】
人によって、イライラ・極度の早口・極度の無口など、心身の疲労が限界になったときのサインはさまざま。
自分のサインを相棒に伝えておく。
目の前に助けを必要とする人がいても、自分がすべてやろうとするのは無理。そのことを理解しておく。

【ペースを守る】
決められたシフトを守る。
深呼吸で落ち着きを取り戻す。
軽い運動で身体をほぐす。
リーダーは無理のない交替制のシフトを作り、援助者の疲労やストレス反応に注意する。

6.地域としての心理的回復プロセス

災害を受けた地域は、次のようなプロセスをたどると言われます。期間はあくまで一般的なものです。

【英雄期……災害直後】
命を守るため、関係機関を含め、誰もが力を尽くす。

【ハネムーン期……6ヵ月まで】
衣食住が問題となり、生きのびた人が助けあい、外部からの援助も行なわれる。被災地は連帯感に包まれる。

【幻滅期……2ヵ月〜1、2年】
衣食住だけはどうにか確保されたところで、心の問題が徐々に目に見える形になってくる。人々は自分の受けたダメージに直面し、やり場のない不満と怒り、避難生活の疲れ、被害の程度の違いによる感情的な反目などが表面化。飲酒問題も出現する。この時期が終わるまでは、地域だけでなく外部からの物心両面の支援が欠かせない。

【再建期……数年間】
被災地に「日常」が戻り始め、被災者は自分の生活の再建だけでなく地域としての再建に参加。一方、復興から取り残されたり精神的支えを失った人に対しては、地域での長期の援助が必要。災害の規模が大きく多数の死者が出てしまったような場合、住民のストレス反応はむしろ出遅れることが多く、その分だけ長引いたり、人によってはPTSDとなる可能性もあり、専門機関の受け皿を確保する必要があります。

7.メンタルヘルスの領域で援助を行なう方へ

アウトリーチのスタッフは「カウンセリングをしましょう」などと切り出すべきではありません。「心理学」などの専門用語もタブーです。
心のケアをすると気負うことなく、食事運びや片づけの手伝い、書類を書く手伝いなど、その場で役立つことをしながら、「大変でしたね」「何か私にできることは?」と自然に声をかけます。

感情が高ぶっている人はさりげなくケアし、手続きがわからない人には説明し、特別な援助が必要なら紹介・手配します。そのため、メンタルヘルスの援助者は、他部門の動きや、公的手続き、交通手段の確保など、地元のあらゆる情報を知っておく必要があります。

ひどいうつ状態や不安、精神障害の悪化、アルコール依存など、日常生活が困難な被災者は、専門治療機関につなげます。

現実には起こっていないことが起こっているかのようにふるまう、極度の興奮状態にある、表情がまったくない、ストレスによる身体症状が深刻、自殺の恐れが感じられるなど、反応が激しいときは、早期に専門機関につなげる必要があります。

8.アクティブ・リスニングを使ったアウトリーチ

当初、多くの人は感情がマヒした状態にあります。このときに「どんな気持ちですか?」と聞いても意味がなく、むしろ、マヒによる防衛の壁を無理に崩さないことが大事です。
話を聞くには、「何が起きたのか」という事実から質問を始めます。「地震があったとき、どこにいましたか?」「まず何をしましたか?」「誰と一緒でしたか?」など。次に「何を考えたのか」を質問します。「揺れの瞬間、何を考えましたか?」「このところ、どんなことを考えていますか?」「ずっと頭から離れないことはなんですか?」など。

多くの人は、考えを話すうち自然と感情を表現しますが、場合によってはやわらかく質問を向けます。被災者が感じていることは、ストレスへの正常な反応であり、時とともに薄らいでいくことを伝えます。

語りたくない人に対しては、その気持ちを尊重してください。「今、話したい気分ですか?」と聞いてみるのもいいでしょう。

9.被災者の怒りへの対応

「幻滅期」の怒りが家族に向かったり、権利の放棄にならないよう、現実的な手助けが必要です。目の前に怒っている人がいたら、反論や議論は避け、具体的に何に一番腹が立っているのか、聞きだします。

援助機関の窓口などで応対する場合、集団を相手に話すのはタブー。行動がエスカレートする危険があるからです。代表者に出てきてもらい、「こちらでゆっくり話を聞きましょう」と、場所を設定しましょう。

まず、スタッフ自身が深呼吸して心を落ち着けます。怒っている人は、あなた個人を責めているのではありません。弁解せず、じっくり話を聞き、相手の感情が出つくした後で「お気持ちはよくわかりました」と言い、相手が落ち着いていたら具体的な話に入ります。

10.被災者の深い悲しみへの対応

「悲しまないですむようにしなければ」「泣くのをやめさせてあげなければ」と思う必要はありません。周囲の人や援助者にできるのは、基本的には、そばにいてあげることだけです。

落ち着ける場所を探し、すぐに手が届くぐらいの距離をとって座りましょう。泣いている人には、質問やアドバイスをすべきではありません。人は泣くだけ泣くと、たいてい気分が楽になったと感じます。話をしたいようなら、静かに話を聞きます。
「それはつらいですね」「本当につらかったでしょうね」というように、悲しみの感情を受けとめます。肉親を失うなど、大きな喪失の悲しみが癒されるまでには、ショック〜怒り〜深い悲しみ〜受け入れ、といったプロセスをたどり、その人なりの時間が必要です。

11.子どもへの対応

子ども、高齢者、心身の障害を持った人は、自分で行動できる範囲が限られるため、不安が高くなります。災害の正体がわからないことも、恐怖を強めます。

多くの場合、子どもは災害後に、夜泣き、おねしょ、甘える、だだをこねるなど、赤ちゃん返りのような反応を示します。これは一時的なもので、心配する必要はありません。

幼い子どもは自分中心の世界観をもっているため、「自分がいけない子だったから、こんなことになった」という考え方をしがちです。「あなたは悪くない」と納得させてあげてください。子どもの行動を叱ったり責めたりすると、こうした考え方を強めてしまうことがあります。

家庭、あるいは周囲の大人が子どもに対してできるのは、以下のことです。

*なるべくそばについていてあげる。
*十分に温かくして、栄養をとらせる。
*恐がったときは「一緒にいるから。大丈夫」と安心させる。
*地震について教える。
*体験を話す場をつくる(強制はしない)。絵を描かせたり、絵を前にしながら話を聞く。
*年齢に応じ役割を分担し、責任を果たしたら心からほめる。


子どもは強靭な復元力をもっています。周囲の支えが得られれば、大人よりも早く立ち直ります。

12.子どもに家族の死をどう伝えればいいか?

事実を伝えてください。亡くなったときの様子を事細かに教える必要はありません。また、大人にしばしば言うように「苦しまなかった」などの慰めもいりません。

たとえば「地震で家が倒れて死んでしまった」のように、事実を説明します。

小さい子どもに対して「お母さんはお星さまになった」のような幻想的な説明は禁物です。もう生きている人のようには動いたり話をしたりできないこと、お墓に入れることなどをわかりやすく説明します。

家族の死について子どもが自分を責める考え方をしないよう、「あなたのせいではない」ときちんと伝えることを忘れずに。

死を受け入れない場合、無理に事実を突きつけるのは避けるべきです。子どもの要求にできる範囲で応えつつ、誰かが一緒にいて状況を見守ってください。

13.高齢者への対応

これまでの生活が変化する苦痛は、高齢になるほど強くなります。日常が崩壊し、住み慣れた所から離れなければならないこと、新しい事態に適応しなければならないことは、高齢者にとって非常につらいものです。

高齢や、心身の障害によって自力で対処できる範囲が限られる場合、恐怖や無力感も強くなります。

感情的にひきこもったり、「子ども返り」をするのは、こうしたストレスへの反応です。気がねして助けを頼めなかったり、援助を受けるのが申し訳ない、あるいは恥だと感じる人もいます。

援助者や周囲の人がまずできるのは、以下のことです。

*理解できるよう状況を知らせ、今後のプランを話し合う。
*非論理的なこだわりは修正し、安心させる。
*混乱しているようなら、日付や時間や状況を繰り返し説明し、認識を助ける。さまざまに違った説明をせず、できるだけわかりやすい言葉で、繰り返し話す。
*頻繁に声をかける、名前を呼ぶ、「肩をもみましょうか」など自然に身体にふれる。
*心身の状態に注意する。
*話を聞き、気持ちをくみとり、できる範囲でニーズに応える。


「もう生きていたくない」など救援や支援を拒む場合には、「あなたが現にこうして生きていること」「生き残ったこと」には何か特別な意味があるはずだと、心から伝えてください。

………………………

この内容は、転送自由です。
情報が役に立ちそうな方が周囲にいらしたら、お送りください。
アスク・ヒューマンケア http://www.a-h-c.jp:80/

by office-matsumoto | 2011-03-25

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